「クラシックジャパニーズイタリアン」としてのサイゼリヤはこれからどこに向かうのか

「クラシックジャパニーズイタリアン」としてのサイゼリヤはこれからどこに向かうのか、など2本立てです
マキタニ 2024.05.25
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今回はこの2本です。

  • 最近のサイゼリヤ報告

  • 「クラシックジャパニーズイタリアン」としてのサイゼリヤはこれからどこに向かうのか

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最近のサイゼリヤ報告

この2週間でサイゼリヤに行ったのは1回。最近ちょっと頻度が落ちていますね。

X(Twitter)のタイムラインで見かけて食べたくなったので久しぶりに「スープ入り塩味ボンゴレ」を。合わせたのは一応魚介つながりで「小エビのサラダ」。

「小エビのサラダ」

「小エビのサラダ」

「スープ入り塩味ボンゴレ」

「スープ入り塩味ボンゴレ」

「スープ入り塩味ボンゴレ」は相変わらずのアサリの多さです。加えて、パスタのメニューの中でも唯一イタリアンパセリがふんだんにかけられていて香りが良いです。原価もかかるだろうにイタリアンパセリじゃなくて乾燥パセリでもいいのにと思ったりもするのですが、感謝しつつおいしくいただきました。

ところでこの「スープ入り塩味ボンゴレ」、X(Twitter)の昔のタイムラインで「麺なし」の写真を見かけたことがあります。ワインを飲みながらいただきたいけどパスタの炭水化物まではいらないという希望を叶えたかったんだろうなーと思いつつ、個人的にもあってほしいと思っていた内容だったのでそっといいねボタンを押しました。

もちろんそのオーダーを受け付けてくれるかはお店次第です。あと、経験上このようなイレギュラーなオーダーはキッチンのオペレーションを崩すことあるよねーという気持ちが勝ってしまうので、この類の注文はなかなか実行には至りません。

ごちそうさまでした。

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「クラシックジャパニーズイタリアン」としてのサイゼリヤはこれからどこに向かうのか

先日のイナダシュンスケさんの「質問箱」への回答をピックアップし、そこから話を膨らませてみます。

それはそうと冒頭から脱線しますが、イナダさんの質問箱やmondなどでの文章の視点と熱量と(おそらく)瞬発性には唸らされます。あれらの文章は「一発書き」に近い速さで書かれていると思うのですが、凄まじいなと思うんですよね。だってそれは本業ではないのですよ?

さて、ある日の質問箱「オリーブの丘とサイゼリヤの路線の比較」へのイナダさんの投稿に、なかなかその言語化のセンスを感じました。

サイゼリヤはイタリア料理と洋食のミクスチャーであり、人々は「サイゼリヤというジャンル」を求めて集まっているのではという指摘

ぐっと来たパンチラインを拾ってみます。

  • サイゼリヤは「イタメシブーム以前の日本のイタリアン」が根っこにある

  • その文化の基本構造は「イタリア料理と洋食(ないしはアメリカ料理)のミクスチャー」

  • 人々は「サイゼリヤというジャンル」を目指して集まっているのではないか

なかなかな表現です。『人々は「サイゼリヤというジャンル」を目指して集まっているのでは』というフレーズには、薄々そうとも感じていた内容がきれいに言語化されて頷くしかありません。

私の子供の頃の日常にはイタリア料理などはなく、平成初期の就職氷河期ど真ん中に社会人になって最初に入社した会社がサイゼリヤという経歴のおかげで、「大人になって接したイタリアン」ニアリーイコール「サイゼリヤ」という感じでした。その後、イタリア料理の食事経験や学習などで上書きや拡張をしているものの、私はサイゼリヤ文化(?)を客観的な視点でうまく見ることができないのかもしれません。

なので、確かにサイゼリヤのメニューやカルチャーは他のイタリアンチェーンや料理店とは異なる「サイゼリヤというジャンル」と言われればそのとおりに感じます。現会長の正垣氏が大学生時代に譲り受けて始めたお店が洋食屋だったことからもまさに「洋食とのミクスチャー」です。なんというか、「町イタリアン」とも言えるかもしれないポジション。

思い当たる要素を挙げてみます。

  • 洋食的なドリアやグラタンがメニューに並び続けている。エスカルゴも洋食屋で主流のフランス ブルゴーニュのスタイル

  • 1970年代前後にイギリスで流行した前菜「プローンカクテル」にルーツを持つだろう「小エビのカクテル」が人気サラダメニューの形で君臨し続ける(これも洋食的ポジション)

  • 「フォッカチオ」と称する、私たちがいま認知する「フォカッチャ」とは異なるタイプのパンが提供されていた

  • 「ガルムソース」と称する、本来のものとはかけ離れるも妄想ローカライズで文化的偽装を遂げたソースが添えられている

  • 一部メニューに「ミラノ風」「シシリー風」とイタリアの地名が添えられるも(過去には「カプリ風」なども)、雰囲気やイメージ的なネーミングであり根拠が弱い

このように、昭和中期から後期の要素をルーツとして確認できるものが見られます。

何より、一般的にサイゼリヤの人気メニューとして挙げられる「ミラノ風ドリア」「小エビのサラダ」「辛味チキン」「エスカルゴ」は、どれもスタンダードなイタリア料理ではありません。むしろサイゼリヤ固有のメニューです。これは「そういうジャンル」という指摘はそのとおりです。

アメリカにおけるパンダエクスプレスと近いポジション、「ジャパニーズイタリアン(日本風イタリア料理)」としてのサイゼリヤ

アメリカに「パンダエクスプレス」という中華料理のファストフードチェーンがあります。日本にも10店舗ほどあります。一度行ったぐらいでそこまで詳しくありませんが、オレンジチキンを代表とするアメリカで独自進化した中華料理「アメリカンチャイニーズ(アメリカ風中華料理)」のチェーンです。

そのポジションにサイゼリヤは近いんじゃないですかね。片やアメリカにおけるアメリカンチャイニーズのパンダエクスプレス、片や日本におけるジャパニーズイタリアン(日本風イタリア料理)のサイゼリヤ。

「ジャパニーズイタリアン」もいくつかに分けられそうです。イナダさんが指摘するような「イタ飯ブーム以前(昭和)をルーツに持つもの」「イタ飯ブーム以降(平成以降)をルーツに持つもの」で分類するのも一つの視点です。

  • イタ飯ブーム以前(昭和)をルーツに持つもの:
    たらこスパゲッティ(壁の穴)、和風スパゲッティ(五右衛門)、洋食とのフュージョン(サイゼリヤ)、本場イタリア系統(カプリチョーザ)

  • イタ飯ブーム以降(平成以降)をルーツに持つもの:
    落合シェフ片岡シェフら以降、本場イタリア各州で修行したシェフによるイタリア料理店、他のパスタチェーンなど

適当にでっち上げると、イタ飯ブーム以前をルーツに持つものはいわば「クラシックジャパニーズイタリアン」。その中にもスタイルはいくつかあり、サイゼリヤは洋食とのフュージョン由来。イタ飯ブーム以降のものは「モダンジャパニーズイタリアン」とかになるでしょうか。

サイゼリヤはイタ飯ブームの波にも乗って店舗数を増やして上場することになったとはいえ、その源流や起点は1970年代の日本イタリア料理の歴史の黎明期です。

2022年以降の方針転換は、これからどこに向かうのか

その後サイゼリヤは2010年代からメニューにイタリア郷土料理色を強め始めた印象があります。2014年のミラノサラミ導入、ペコリーノチーズの導入、その後の地域色を強めた尖ったメニューなどなど。

異なる2種類のジェノベーゼを出したり(ペストジェノベーゼをちゃんとリグーリア州を代表するトロフィエで提供しつつ、タマネギベースのナポリ風ジェノベーゼも提供したり)、イタリア南部でよく食される羊肉を導入したり(アロスティチーニなど)、洋食フューション由来とは異なる「本場のイタリア料理軸」を展開し始めました。

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